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ツイッターのRTありがとうございましたw

書籍プレゼント応募期間中です。

佐倉紫の書籍の中から五作品を対象に
プレゼント企画を実施中ですので、
ご興味のある方は是非のぞいてみてください。
書籍プレゼントのお知らせ
一つ下の記事になっております。

***

先日ツイッターのほうで「物書きさんへのお題」
というかそんなんがあって(正式名称忘れたorz)
いくつかRTされたら質問に答える、みたいな
感じで、その最後にあったのが
「19RTされたらSSプレゼント」でした。
HAHAHA、19RTなんて集まらないよハハッ、とか
高をくくっていたらRTだけで20越えて、
ふぁぼも合わせるともっとになっちゃったので、
これはSSを隠しかあるまいよ、ということで
書きました。『呪われ姫と婿入り王子』の一コマ。

他の作品のSSも書きたいのですが、完結していないと
なんとなく書きづらいし(本編に差し障りが出てくる
可能性がなきにしもあらずなので……)、
かといって書籍化されているものは勝手に
SSとか書いちゃうと怒られそうだし……
というか出版契約違反とかになるんじゃ?(滝汗
ということで、必然的にSSを書ける作品が
『呪われ姫』くらいしかないというのが実情だったりしますorz

でも人気の作品だし好きだって言ってくれるひと
多いからいいよね! と解釈して突っ走る作者です。
そんなことする暇あるならさっさと改稿版終わらせて
第二部をという声がめっちゃ聞こえる。ごめんなさいorz

なにはともあれSSです。お楽しみください。
あ、ブログなのでRなシーンは控えました。
期待していた方がいらっしゃいましたら深くお詫びいたします。

***

「さて、リーシュ。今夜こそ白状してもらいましょうか」
 表情こそ爽やかな笑顔だというのに、そう問い詰める声は低くて脅しが利いている。
 壁際に追い込まれ、顔の横に両手を突かれたリーシュは、ひくっと口元を震わせた。
「は、白状するもなにも、あなたに隠し事なんて……」
「リーシュ、嘘はいけません」
 しどろもどろなリーシュと違い、クラウドはきっぱり言い切って、彼女の手を取る。
 あっ、とリーシュが声を上げたときにはもう遅い。妻の細い指先にちゅっと口づけてから、クラウドは笑顔のまま問いかけた。
「あなたのこの細指に巻かれている、無数の包帯はなんです? ここ最近手袋を身につけていらっしゃったのは、これを隠すためでしょう。わたしの目は誤魔化せませんよ」
 クラウドの言うとおり、リーシュの指先、特に左手の指には包帯が巻かれていた。
 指先という日常的に使う部分だけに、傷を負っていてはあまりに外聞が悪いということで、ここ数日は手袋をはめて過ごしていたのだ。
 周囲にはちょっとしたおしゃれをしているとか、指先のケアのためと説明していた。
 実際、そういう理由で手袋をする貴婦人は多い。リーシュが身につけていたのも、最近流行りだというレースを使った手袋だ。
 クラウドも当然手袋には気づいていて、毎日違うデザインのものを身につけていて可愛いですね、と褒めてくれていたのに。
(いったいいつ、怪我のことに気づいたのかしら?)
 首を傾げるリーシュに、クラウドは「見くびらないでください」とわずかに凄みを帯びた口調で言う。
「食事中、メインの料理を切るときに眉をひそめていたでしょう。左手に力が入りづらいのだとすぐにわかりました。昨日の昼に乗馬にお誘いしたときも断っていたし、そのときさりげなく左手をうしろに隠したのを、わたしはしっかり見ていましたからね」
 リーシュはあんぐりと口を開けてしまう。いずれも自分が無意識にしていたことだ。
 それだけに、夫の洞察力に、驚きよりもむしろ空恐ろしさを感じてしまう。
「話を戻しましょう。リーシュ、どうして指先に怪我を負ったのです? そして、なぜそれをわたしにまで隠すのですか?」
「そ、それは……」
「ほんの小さな傷でも、あなたが怪我を負ったなら、わたしは心配せずにはいられないのに」
「あっ……」
 指先に口づけられ、そこから手の甲、手の平と口づけを落とされ、リーシュは尋問の最中だというのに妙な気分になる。クラウドがかすかにのぞかせた舌先で指の股を舐めてきたときには、意図せず妙な声を漏らしてしまった。
「教えてくれないなら、このままキスを続けますよ」
「あ、だ、だめ……、んっ……」
 手首の脈打つところに唇を強く押し当てられ、そのまま肘まで舌を這わされ、リーシュは背筋を震わせてしまう。
 なにか上手く誤魔化せる言葉はないだろうかと思うのに、首筋や耳元にまで口づけられると、頭の中がぼんやりしてきて、まるで思考が働かなかった。
「ク、ラウドさま……、あぁんっ」
「……答えてくださらないなら、このままあなたを貫いてしまうよ」
 硬くなり始めた一物をそれとなく下腹に押し当てられて、リーシュは不覚にも胸を高鳴らせてしまった。
「だ、駄目です、だめ……、クラウドさまぁ……っ」
「――はいはい。そこまでにしなさい。公爵閣下、陛下はまだ髪を乾かしてもいないのですよ。このままでは湯冷めしてお風邪を召されてしまいます。いったん離れなさい」
 あわやこのまま熱くなるのかというタイミングで、ロゼッタがパンパンと手を叩きながら割って入ってきた。
 リーシュは文字通り飛び上がる。一方のクラウドは、不機嫌を隠しもせずに肩越しにロゼッタを睨みつけた。
「ロゼッタ、ここで声をかけるのはさすがに無粋じゃないか?」
「そんなふうに鼻白んでも無駄ですよ閣下。ほら、さっさと退きなさい。陛下の御髪を乾かしますから」
「しかしっ」
「陛下も、素直に話してしまえばよろしいのでは? どのみちもうすぐ完成なのだから、遅かれ早かれ話すことになるでしょうし」
「ロ、ロゼッタ!」
「もうすぐ完成? なにがです?」
 怪訝な顔をするクラウドを、ひとまず身支度を調えるからと、リーシュは脱衣所から追い出した。
「閣下も、陛下が言い逃れできないときを狙ってやってくるのだから、本当に目敏いというかなんというか、ね」
「ロゼッタ……」
「はいはい、リーシュ様もそんな恨みがましい目を向けても無駄ですよ。年寄りにはその程度の脅し、効きやしないんですから。ほら、ローブを脱いで、夜着に着替えて。早くしないと痺れを切らした閣下がまた乗り込んできますからね」
 リーシュはちょっぴりむくれながらも、二人の老侍女に洗い立ての髪を拭ってもらい、湯上がりの身体を包んでいたローブから、薄手の夜着へ着替えた。
 いつもはここで就寝用の飾り気のない手袋をつけていたが、包帯のことがバレたのなら必要ない。寝室に入ると、先に寝支度を調えたクラウドがむくれながら待っていた。
「で、完成とはなんのことですか?」
 さっそく話を切り出すクラウドに、リーシュは「もう」と思いつつ、自室から持ってきた包みを差し出した。
 クラウドが怪訝な面持ちになりながらそれを受け取る。彼の大きな手にすっぽり収まる四角い包みだった。
「開けてもよろしいですか?」
「ええ。本当は、きちんと完成させてからお見せする予定でしたけど」
 クラウドがますます眉を寄せる。包みを丁寧に開いた彼は、そこから出てきた一枚のハンカチーフを広げて、かすかに目を瞠った。
「これは……」
「近々、クラウド様に新しい紋を授ける予定でしたでしょう? 獅子を模したあなただけの紋を。それに合わせて刺してみたのです」
 近く、クラウドには女王の婿と公爵という他に、もうひとつ新たな肩書きが授けられる予定だ。そのときに彼を示す紋も公表する手はずになっていたので、それを祝っての、リーシュからのささやかな贈り物だった。
「では、リーシュのその指の傷は、この刺繍を刺していたから……?」
 真っ白な絹のハンカチーフの隅には、彼に授ける紋と同じ、獅子の横顔が刺繍されている。まだ爪の部分だけ残っていて、完成ではないのだが、もうほとんどできあがっていた。
「刺繍はあまりやったことがないので、不格好で申し訳ないのですけれど」
 傷だらけの指先をなぞりつつ、リーシュは恥じ入ってちょっとうつむく。見本通り針を進めていったはずなのに、図案がどうも斜めになっていて、布もかすかに寄れてしまって、あまり見られたものではない。
 しかし、クラウドはひどく感じ入った様子で、リーシュの肩をぎゅっと抱き寄せた。
「謝ることなど……あなたが忙しい時間を割いて、指先を傷つけてまで用意してくださったなら、これに勝る喜びはありません」
「そ、そんな、大げさです……」
「大げさなものですか。今まで手にしてきたどんな贈り物より嬉しい」
 言葉通り、クラウドはうっすらと頬を染めて、どこか泣きそうな笑顔を浮かべていた。
「ありがとうございます、リーシュ。大切に使わせてもらいます」
「ええ。でも、まだ完成していませんから、一度お返しくださいね?」
「……これ以上、怪我をなさらなければよろしいけれど」
 名残惜しげに刺繍の部分を優しく撫でて、クラウドはリーシュの手にハンカチーフを戻した。
 そして彼女を再び抱擁し、優しいキスを唇に落としていく。
「けど……使うのも、もったいないな。嬉しすぎて。ずっと持っていたいし」
「大げさですわ」
 リーシュは笑って肩をすくめるが、夫が思いがけず喜んでくれたので、本当は枕に顔を埋めて足をパタパタさせたいくらい嬉しくなっていた。褒められたできではないだけに、よけいに浮き足立ってしまう。
 リーシュの指先にまた口づけて、クラウドは「でも」と苦笑した。
「今回は嬉しい驚きだったからよかったけれど、……そうでなくて傷を負ったときには、隠さずにちゃんと教えてください」
「ええ、わかりました」
「本当に? 身体だけでなく、こちらに傷を負ったときも、ですよ?」
 胸元にそっと手を当てられて、リーシュは泣きたいほど嬉しくなる。実際に大きな瞳を潤ませながら、彼女はしっかり夫の目を見て頷いた。
「ええ、もちろん。一番にお知らせします」
「そうしてください」
 クラウドも笑って、リーシュの唇に口づける。リーシュが応えると、ほどなく口づけは深いものになった。

 優しい夜が更けていく。
 お互いを慈しみ合いながら、二人は幸せな気持ちを深めていった。

***

お粗末様でしたノシ
  
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『呪われ姫』SS書けた

○子ちゃんにミルクをあげながら
ぼんやり考えていた『呪われ姫』の第二部。
やりたいことが多くて全然まとまらないことに
絶望感とめんどくささを覚えながら、
なんか気がついたらSSができていた(なぜだ

以前あげたこちらの記事と対になっています↓
http://yukarisakura3228.blog.fc2.com/blog-entry-210.html

では、どうぞ。

***

「……おやおや」
 洗い立ての髪をぬぐいながら、扉を開けたクラウドは青い瞳をぱちくりと瞬かせた。
 視線の先には、彼の愛する妻であり、この大国ナーシエーデの女王であるリーシュがいる。長椅子にしどけなく横になった彼女は、大ぶりのクッションを枕代わりに、すぅすぅと寝息を立てていた。
 無防備でいて無垢なその寝姿に、クラウドの口元は自然と緩む。
 先日、ようやくジェノスを始めとした異教徒たちを城から一掃し、『呪われ姫』という不名誉な称号をいただいていたリーシュは、女王として堂々と公の場に立つことができるようになっていた。
 城中を混乱に突き落とした一連の騒動もようやく終着の目処が立ち、これからは隣国ブレズセルとの交渉に向けて、再び忙しくなるというところである。
 騒動の事後処理に、リーシュもクラウドも連日奔走していたが、ようやく終わりが見えて、彼女もほっと一息ついたところだったのだろう。
 今日は軍事訓練に顔を出していたクラウドのほうが帰りが遅かったから、もう真夜中近い時間、リーシュは先に寝ているだろうと思って、夫婦の寝室をのぞいてみた。
 だが寝台に人影はなく、使用した形跡もなくて、首を傾げながら妻の私室に立ち寄ったのだ。そこで、長椅子で寝てしまった彼女を発見したというわけである。
 扉が開く音にも気づかず、すっかり眠り込んでしまったらしい妻に、クラウドは苦笑と安堵を覚える。
 クラウドがこの国にやってきてすぐの頃、彼女は神官たちにほとんど虐待じみた扱いを受けていて、夫とともに眠ることにも神経を使っているようだった。
 当然、うたた寝などできる精神状態ではなく、こんな無防備な姿を見られることなどまずなかったのである。
 それが、今はすっかり安心した様子で寝入っているのだ。彼女にとって、この城内が心休まる場所になっているというなによりの証拠である。
 彼女に安らぎを与えたくて、正当な地位を与えたくて、奔走していたあの頃の行いが報われたような思いだ。
 髪を拭き終えたクラウドはしばらく彼女の様子を見ていたが、このままにしておくわけにはいかないと思い直し、そっとその細い肩を軽く揺さぶった。
「リーシュ、眠るなら寝室へ行かないと。風邪を引きますよ」
 だがリーシュは深く寝入ってしまったのか、「んぅ……」とかすかに眉をひそめただけで、目を覚まさない。
 クラウドはやれやれと苦笑して、そっとその身体を横抱きに抱え上げた。
 しっかり食べるようになった今でも、リーシュの身体はほっそりとしていて、羽が生えているように軽い。
 だが血色や肌つやは初めて会った頃よりも格段によくなり、本来の楚々とした美しさにより磨きがかかったように思えた。
 月明かりしかない寝室に入り、寝台にそっとその身体を降ろせば、まるで眠り姫を前にしているような気分に陥る。
「口づければ目覚めてくれるかな」
 隣に並んで横になりながら、枕に肘をついて身体を起こしたクラウドは、しばし妻の寝顔を堪能する。
 伏せられた長い睫毛、頬にかかる滑らかな黒髪……薄紅色の柔らかな頬を手の甲で撫で、クラウドはさらに深くまで彼女にふれたい欲求を覚える。
 すぅすぅと寝息を漏らす、ふっくらとしたつややかな唇が目に入る……。甘酸っぱい桜桃のような、思わずついばみたくなる唇。
 クラウドは少しのいたずら心を持ちながら、そっと身を乗り出し、その唇に唇を重ねた。
 柔らかく温かな感触は、それだけで欲望の火種になる。
 このままふれ続けたら、彼女はどう反応するだろう……
 そんなことを思いながら、クラウドは大きな掌を彼女の胸にあてがった。
 夜着越しにふんわりとした膨らみを包み込むと、彼女の肩がぴくりと跳ねる。
 起きたかな、と思って唇を離せば、リーシュはかすかに眉根を寄せて、また「うぅん……」と小さくうなる。
 わずかに不機嫌な顔に、クラウドもますますいたずら心を刺激される。
 我慢できずに微笑みながら、掌を胸から下肢へと滑らせようとしたとき――
「……クラ、ド……」
 不意に、その唇から自分の名前が漏れて、クラウドはぴくりと動きを止めた。
 だがリーシュは目を覚まさず、さらに眉根を寄せて身をよじる。
 ふれられるのが不快だったのだろうかと、クラウドは手を引きかけたが……
「んふ……、クラウド……」
 それまで不機嫌顔だったリーシュの面が、一瞬にして、花がほころぶようにぱぁっと明るい笑顔になった。長い睫毛は伏せたまま、しかし本当に嬉しそうに微笑まれて、クラウドも驚く。
 夢見るような笑顔を浮かべたリーシュは、未だ眠りの中を漂いながらも、くすくすと笑い声を漏らした。
 そしてそのほっそりとした腕を、不意にクラウドの首に巻き付けてくる。
 突然のことに驚き、思わず硬直するクラウドのすぐ目の前で、眠り続けるリーシュは吐息混じりに呟いた。
「クラウド……、大好き」
 頬をわずかに紅潮させながら、甘い声音で囁かれる。
 完全な不意打ちに、クラウドは不覚にも、ぼっと耳まで真っ赤になってしまった。
 あまりのことに息まで止めてしまうが、当のリーシュは夫の反応などどこ吹く風、再びむにゃむにゃと寝言を呟くと、そのまますぅっと眠り込んでしまった。
 微笑みの名残を浮かべながら、幸せそうに眠り続ける妻の姿に、クラウドは奥歯を噛みしめる。
(……忍耐力を試されている気分だ……)
 眠っているリーシュにそのつもりはないのだろうが、クラウドにとっては生殺しもいいところである。
 しかし……
 すやすやと、危機感も不安もなく安らかに眠っている妻を見ると、劣情とは別に、庇護欲のようなものがむくむくと首をもたげてくる。
 彼女の眠りを護りたい。その思いが愛情とともにせり上がってきたとき、クラウドは欲望よりも幸せをより強く感じるようになり、思わず苦笑してしまった。
「……まったく。この貸しは大きいですよ、リーシュ」
 せめてもの反抗で呟いてみるが、リーシュは相変わらずぐっすり眠っている。
 そんな彼女を抱きしめて、クラウドも静かに目を伏せた。
 つややかな黒髪に顔を埋め、彼女の匂いに酔いしれる。
 ――愛し合うふたりの眠りを、月明かりがしっとりと包み込んでいた。

***

最後に綺麗な一文を持ってくることで
それまでの残念感を払拭させ、
なんとなくいい話に持って行く。
これ小説の基本だよね(笑

最初のSSでいい思いをしたクラウドなので、
今回は我慢を強いてみました。
こういうのってだいたいヒーローが
ヒロインを美味しくいただきました☆
っていうのがセオリーですが、
たまにはこういうのもいいかな~と思ったりします。

そしてSSにかまけて
『奪われた~』のほう書けてないよ!
21時に間に合うのかなこれ。
とにかく頑張ります。

……あ、でもそろそろ○子ちゃん起きそうだねorz

『呪われ姫』完結記念

はい、『呪われ姫』昨夜で完結しております。
第二部があるということで、
「完結タグついているくせに終わってないのか!」と
お思いになるかもしれませんが、
きちんとキリのいいところまで書いてあります(汗
むしろハッピーエンドのラブロマンス作品として
読むならここで完結でOKなところ。
第二部はいわば後日談でもありますからね。
結構壮大な後日談ですが(汗
紛らわしくて申し訳ないです。

ということで完結記念にSS投下。
といっても新作ではなく、
本編第五話『夜の儀★』を
リーシュ視点で書いてみたというだけのもの。
最後の十話を書くに当たって、
最初からばーっと読み返したとき、
な~んか書きたいなー、と思ったので
書いてみたというただそれだけ。

ご興味のある方はどうぞ。


***

「あとは自分でやります。下がっていいわ」
 目の前に広げられた夜着を見下ろし、リーシュは素っ気なく命じる。
 それまでこわごわとした手つきで彼女の支度を調えていた女官たちは、一様にほっとした面持ちで、そそくさと女王の部屋から退室していった。
 ひとり残された部屋で、リーシュはふーっと息を吐く。
 身体に巻き付けた大判の布を床に落とすと、彼女は手早く新しい夜着に袖を通した。
 婚姻の初夜のためだけにあつらえられた、絹製の薄く軽い夜着。
 最上の生地が肌を滑る感覚は素晴らしかったが、それを纏うリーシュの心は、夜着の色と同じように暗く重たく沈んでいた。
(こんなに早く、王冠を戴く日がくるなんて……)
 戴冠式の際、頭に乗せられた王冠は、今は執務机の上に置かれている。
 あとで宝飾係が持ち帰り磨いておく手はずになっているが、女王の手にふれたものを彼らがきちんと管理しようとするかは謎だ。
 『呪われ姫』のふれたものには、もれなく呪いがついてくる。いったい誰がそんなことを言い始めたのだろう。この夜着も、戴冠式と結婚式で身につけたドレスも、明日には燃やされ灰になっていることだろう。
(国費の無駄ね……)
 そんなことを考えてしまうのは、これから待ち受ける夜の儀から、少しでも意識を逸らしたいせいだろうか。
 これから待ち受けることを思って、リーシュはきつく目を伏せる。
 結婚とは、ただ神官に祝福をもらって終わりではない。本当の儀式は夜に用意されている。
 貴族たちはどうかわからないが、王家の婚姻では、夫婦となった者たちが『白い結婚』とならないよう、王国の要人や神官たちの前で契りを交わすことが義務づけられているのだ。
 代々の王と王妃が通ってきた道ではあるが、だからといって気が楽になるわけでもない。
 まして、契りを交わす相手は、今日初めて顔を合わせた隣国の王子だ。顔見知りであればまだここまでの緊張はなかったかもしれないが、なまじ知らない相手なだけに、リーシュに対してどんな反応を見せるか、まるで見当もつかなかった。
(式のときは、とても落ち着いた方のように見えたけど……)
 リーシュの髪を洗うのにも、全身をぶるぶる震わせていた侍女たちとは大違いだ。ヴェール越しだからよく見えなかったが、アグレッセンからやってきた王子は、終始自然体で、宴席では朗らかな笑みを浮かべ楽しんでいたように思える。
 ふと、リーシュは祝宴で、自分も彼もなにも食べていないことを思い出した。
 夜のことがなくても、大勢の前に『呪われ姫』として出て行くことの緊張で、食欲などとうてい湧かなかったリーシュだ。
 だが隣国の王子が彼女と同じだったかと言えば、きっと違うはずだ。リーシュは少し考え、壁際に下がる紐を引っ張った。
 遠くで鈴の音が鳴り、侍従が全身を震わせながら入ってくる。
「お、およびでしょうか、陛下」
「王子殿下……いえ、公爵閣下に、なにか夜食を差し入れるように。すぐに口にできるような簡単なもので構いませんから」
「は、はいっ、すぐ厨房に伝えてきます」
 侍従はそれだけ言うと、すたこらと部屋から逃げ出していった。
 今さら侍従や女官にそのような態度を取られたところで傷つくことはないが、多少憂鬱になるのは仕方がない。
 リーシュは再びため息をつきつつ鏡台に座り、洗い立ての髪を乾かして、丁寧に櫛を通した。
 夜の儀――初夜。
 男女の閨のことなど、ひとつも知らないリーシュだ。恥を忍んでどんなものか尋ねてみたが、具体的な答えは返ってこなかった。
 愛する者同士のふれあいと言えば、口づけくらいしか思いつかないが、そもそもリーシュと夫となった王子は愛し合ってすらいない。そんな状態でどうやって契りを交わすのだろう。いったいなにを行うのだろう。
 考えれば考えるほど恐怖が募り、櫛を持つ手すら震えそうになる。
 だが時間は止まることなく、ほどなく神官が彼女を迎えにきた。
 緊張のしすぎで吐き気すら覚えながら、リーシュは彼らについて、夫婦の寝室へと入る。
 夫となった隣国の王子は、すでに寝台の上でくつろいでいた。
 頼んでおいた夜食は間に合っただろうか? これだけの衆人環視の中、『呪われ姫』相手に契りを交わすことを、苦々しく思っていたらどうしよう――さらなる不安は恐怖に拍車をかけて、否応なくリーシュの身体を強張らせる。
 そうなるともう息をするのも苦しくなって、リーシュは鳩尾あたりを押さえながら、ついその場に立ち止まってしまった。
 逃げ出したい。泣いてわめいて、ここから逃れることができたらどれほどいいだろう。
 ――そんな彼女の前に、そっと大きな手が差し出される。
 驚いて顔を上げれば、寝台の上から、王子がこちらへ手をさしのべていた。
 多くの明かりの中、印象的な金の髪が淡く輝いている。薄い青の瞳がわずかに和み、唇が親しげな笑みを描くのを見て、リーシュの心がわずかながら楽になる。
 すっと息を吸い込み、その手に手を重ねると、彼がきゅっと握り込んでくるのがわかった。
 その温かさに驚きながら、彼の手を借りて寝台へ上る。
「ただいまより、夜の婚姻の儀式を見届けたいと存じます――」
 顔を隠した神官長ジェノスが、厳かな声で宣言してきた。
 低い声で祈りの言葉が呟かれる。それが毎朝の潔斎を思い出させて、リーシュはつい、いつもそうしているように祈りの形に手を組んでしまった。
 するとそれが作法だと思ったのか、夫も同じように胸元に手を当て目を伏せる。瞼を閉じるとまつげの長さがひときわ際立ち、彼の美しい容貌を引き立たせるようだった。
 そうして祈りが終わり、ジェノスがするすると下がっていく。
 代わりに行為を見届けるため、何人かが寝台を囲むように近づいてきた。
 全員が覆面をつけ、顔を隠しているとは言え、身につけている衣服や記章から、どういった身分のものであるかははっきりわかる。
 幸いなのは、宰相であるムーアが同席していないことか。リーシュにとって彼は唯一の味方で、国政の指導者であり、父親のような存在でもあった。その彼にこんな場面を見られたら、羞恥が大きすぎて二度とその顔を見られる気がしない。
(もう、考えるのはやめにしなければ。いつになっても終えられないわ)
 リーシュは覚悟を決めて、自ら寝台に仰向けになる。心臓が今にも飛び出しそうなほど、大きく鼓動を打っていた。
(早く終わらせて……)
 祈るような気持ちで思ったとき、夫のほうも覚悟を決めたのか、リーシュの上に馬乗りになってきた。
 なにをされるのだろう。不安が頂点に達したとき、そっと、温かい手が頬にふれてきた。
先ほど手を握り返してくれたのと同じ温もり。リーシュは驚いたが、怖くて目を開けることができなかった。
 そのとき。
「すみません、陛下。なるべく速やかに終わらせるようにいたします」
 耳元で囁かれ、リーシュはさらに驚く。
 夫のものとおぼしきその声音は、本当に申し訳ないという思いに満ちているように思えたのだ。
『呪われ姫』である自分に、そんな気遣いを見せる者などいるはずがない。
(でも……)
 胸の中を、わずかな希望が駆け抜けていく。
 かすかに兆したその光を見てみたくて、リーシュはそっと震える瞼を押し上げた。
 すぐ近くに、自分をのぞき込む夫の顔があった。彼もまた驚いた様子でこちらを見返す。
 その青い瞳があまりに綺麗で、直視されることには慣れなくて、リーシュは慌てて言い添えた。
「どうぞ、お気遣いなく……閨では、公爵様のお好きなようになさってください」
 一言ではあまりに素っ気ないと思って、ついついよけいな言葉を言い添えてしまう。
 お好きなように、なんて、本当はこれっぽっちも思っていない。ただでさえ衆人環視の中で、恐怖がはち切れそうなのだ。
 優しくしてほしいとは言わない……だが、乱暴にはしないでほしかった。相手が『呪われ姫』に嫌悪を覚えていて、そんな相手と結婚せざるを得なくなったことに、腹を立てていないならの話だが……
 目を伏せ、ひたすらじっとするリーシュの頬を、温かな指先が包み込む。ぴくりと反応してしまったリーシュは、次の瞬間、柔らかな感触を唇に感じて、思わず息を呑んだ。
 温かく、柔らかくふれてくるそれに驚いて、リーシュはそっと薄目を開ける。
 夫の青い瞳がすぐ間近にあった。鼻先がかすかにふれあい、唇に押しつけられているものの角度が変わる。
 口づけられている――そう思った瞬間、胸の内にぼっと炎がともったような気がした。
 口づけは愛する者同士が行うもの――ずっとそう思っていたが、彼は政略で結ばれたリーシュにも、その唇を与えてくれるらしい。
 ついばむように、何度も何度も軽い口づけを送られ、リーシュの中の恐怖と不安が、ほんの少しだけ鎮まっていく。代わりに戸惑いが生まれたが、それも不快なものではなかった。
(……なんだか……)
 ちゅ、と軽い音を立てながら繰り返されるこの行為が、とてもよいものに思えてきた。くすぐったくて、なんだかもどかしい気もするが、とても……心がぽかぽかとしてくる。
 自然と身体の力が抜け、手足がくたりとなった。
 が、彼の手が夜着越しに胸にふれてくるのに気づき、緊張が舞い戻る。いつの間にか唇が薄く開いていることにも気づいて、慌てて引き結んだ。
「力を抜いて……楽にしていてください」
 薄い生地越しに、やわやわと刺激が与えられる。親指がそっと乳頭を押してきて、布地が擦れて、なんとももどかしい感覚を生んだ。
 いつの間にか胸の頂は凝り始めている。まるで寒いところに出たときのような身体の反応に、リーシュは大いに戸惑った。寒暖差によりそこが堅くなるときは、こんなもどかしい感覚など覚えないのに、今は熱いようなむず痒いような、不思議な心地がふれられたところから生まれてくる。
 と、夫の金髪がさほど深くもない胸の谷間に沈んだ。なにをするのかと息を詰めれば、
彼の唇が布地ごと胸の頂をくわえ込んでしまう。
 突然のことに驚くが、それ以上に、熱い吐息を吹きかけられ、ざらついた舌でぞろりと舐めあげられたことに仰天した。
 そんなところに吸い付くのは、赤ん坊だけだと思っていたのに……彼の舌はなんとも嫌らしい動きで乳首を舐めあげ、布地ごとねっとりと濡らしてしまう。
「……っ」
 あまりのことに声を上げそうになってしまうのを、敷布を握ることでなんとかこらえた。
 だがそんなリーシュの努力を無にするように、夫の片手がそろそろと腹を伝い、さらに下へと向かっていく……
「申し訳ないが、足を、少し開いてください……」
(足を……?)
 なぜそんなことをするのかわからない。だがやれと言われたことに抵抗するのも怖くて、リーシュは震える膝をどうか少しだけ開いた。
 そうしてできあがった隙間に、彼は素早く身体を滑り込ませてくる。
 リーシュは慌てて足を閉じようとするが、そうすると彼の身体を内腿で挟み込む形になってしまい、すんでのところで動きを止めた。
 そうこうするうち、彼は夜着の裾に手を入れて、わずかに持ち上げてくる。
 肌着を身につけていない下肢が外気にさらされ、リーシュはぶるりと震え上がった。
(いやっ……そんなところ、どうするというの?)
 否応なく煽られる恐怖に、リーシュは目を開けることもできない。
 と、いきなり足のあいだに、なにかが押しつけられた。堅く丸みを帯びたそれは、リーシュの割れ目をなぞるように刺激してくる。
「……ぁ……」
 かすかに伝わる濡れた感触と、押し込められる圧迫感に震える声が漏れる。
 敷布を堅く握り込みながら、リーシュは恐怖を苦そうと意識的に細い呼吸を繰り返した。だが唇から漏れる息はひどく震えていて、逆に緊張と恐怖が募っていくように思える。
(怖い……っ)
 割れ目に押しつけられたそれは、ゆっくりと襞のあいだを上下する。やがてそれがさらに堅く熱くなっていくのに気づいて、リーシュは危うく叫び出しそうになった。
「わかりますか? これが、今からあなたの中に入ります」
 先端とおぼしき部分を、ぐっと押しつけられ、リーシュは震え上がる。
 中に入る? どういうこと? 問い詰めたいが、返ってくる答え如何によっては、みっともなく逃げだそうとしてしまいそうで、リーシュは奥歯を噛みしめる。
 説明されたところで、知識がない自分に理解できるとも思えない。こうなればもう、黙って受け入れるしかない。結局逃げ道はないのだから。
「多少痛むでしょうが、できる限り静かにします。ですから、耐えてください」
 幸いなのは、夫となった青年が、こうやってこちらを気遣ってくれることだろう。
 それだけが唯一の救いだと思いながら、リーシュはぎこちなく首を振った。
「大丈夫です。どうか、お好きなように……」
 本当は大丈夫なんかじゃない。今すぐにやめて欲しい。この恐怖から助けて欲しいのに……
「では……」
 彼は静かに呟くと、やにわに、震える襞の合間に、猛ったものを突き入れてきた。
「――っ……!」
(痛いっ……!)
 身体を割って押し入ってくるものの存在に、リーシュは体中を強張らせた。
 痛い……下肢が引き裂かれそうだ。毎日の潔斎で、痛みには慣れていると思っていたけれど、これはそれとはまったく別種の痛み……
(やめて! もう無理よ……っ、助けて……!)
 痛みのあまりからだがびくびくと引き攣り、食いしばった歯のあいだから殺しきれないうめきが漏れる。悲鳴を上げてのたうち回ったら楽になるだろうか。だがそんなことをして、相手の不興を買ったら……
 気遣いを見せてくれた彼に対し、そんな不実なことはしたくなかった。彼だって、こんな衆人環視の中、本来なら秘められた場所で行うことなどしたくはないはずだ。彼もまた耐えている。
「息を吐いて、力を抜いてください。少しは楽になれます……」
 痛みの中、その彼の声が聞こえて、リーシュは必死になってそれにすがった。力を抜くことはできなかったが、震える唇のあいだから、必死に息を吐き出す。
 だが押し入ってきたなにかがさらに大きくふくれて、内側から身体を圧迫されるようになると、やはり言葉通りにするのも難しかった。
 彼もまた息を荒げながら、じわじわとリーシュの中に押し入ってくる。
 やがて奥までみっしりと犯される感覚があって、夫が空気の塊を吐き出す音が聞こえた。
 腰が抱えなおさら、ぐっと引き寄せられる。
 その動作にすら痛みを感じ、リーシュは小さくうめいてしまった。
「わたしにしがみついても結構です。……動きますよ」
 リーシュはとっさに、敷布から彼の腕へ手を滑らしそうになった。
 慌ててそれをこらえ、こくんと頷く。本当はすがりつきたいが、痛みのあまり爪を立てて、彼を傷つけたら大変だ。
 痛みに支配された頭の中で、唯一彼のことだけが考えられるのが不思議だった。
「う……、うあぁ……っ」
 だがまともに考えられたのも一瞬で、次のときには彼がゆっくり腰を動かしてくる。
 そうすると身体に入り込んだものが体内を出入りするのが伝わって、リーシュは軽く混乱した。痛みに涙ぐみながらも、彼女はそっと自分の下肢を見下ろす。夜着の裾で隠れているが、自分の足のあいだには彼の下肢がある。そして痛みがかなりひどいところで、ふたりの肌が重なり合っているのがわかった。
 ということは、自分の身体の中にあるのは、男性にだけ備わっている性器なのだろう――男と女、それぞれに備わっている部分を重ねる行為。それが閨ごとのすべてなのだと、リーシュは遅まきながら理解した。
 それはなんて痛みを伴う行為なのだろう。……世の夫婦は、皆この痛みに耐えて子供を授かっているのか。
 だが子供を産むときにはそれ以上の痛みを感じるはずだ。それに耐えるために、こうして閨の段階から身体を痛みに慣れさせておくのだろうか――
 抜き差しされる苦痛に揺さぶられながら、リーシュはかろうじてそんなことを考える。
 そのとき、夫の腕に力がこもって、リーシュの身体が強くかき抱かれる。
 密着する熱さにびくりとしたとき、身体の奥に熱い感覚がじわりと広がって、リーシュは困惑した。
 なにが起きたかわからず、息を詰めて震えていると、夫の身体がそっと離れていく。
「……ぅっ……」
 同時に、体中をさいなんでいた杭がずるりと引き抜かれ、リーシュはびくりと身体を引き攣らせた。
 彼が出て行っても、繋がっていた部分はじくじくと痛む……おまけになにかが流れ出しているような感覚があって、リーシュは再び恐怖に襲われた。
「……大丈夫ですか?」
 夫が声をかけてくるが、応える気力もない。
 そんな中、遠巻きにしていた人々がぞろぞろと近づいてくる気配がした。
「公爵様、申し訳ありませんが――」
 ジェノスの言葉が響いて、夫がリーシュの身体から離れていく。
 離れないで、とリーシュはとっさに思った。
 なぜだろう。つい先ほどまで、自分に痛みを与えていたのは彼であるはずなのに、リーシュはその彼に、すがりつきたくなったのだ。
 だが願いは叶わず、下ろされていた裾が再びジェノスに手により引き上げられる。
 夫にされたとき以上に派手にめくられ、リーシュは震え上がった。ここにいるすべてのひとに下肢をさらしてしまっている。それも行為を終えたばかりの、決して正常ではない状態のところを――
 こらえていた恐怖が一気にあふれ出しそうになる。目の前が真っ暗になって、リーシュはひゅっと喉を鳴らした。
 止めようとしても止まらない、悲鳴がほとばしりそうになる――
 そのとき、隣に身体を投げ出していた夫が、ひどく驚いた様子で声を上げた。
「おい……!」
 きつい口調は怒りを表している。リーシュは一瞬、自分が怒鳴られたのかと思ってびくりとしたが、薄目を開けた先にいた夫は、リーシュではない方向を睨んでいた。
 その先にいるのは神官長ジェノスで、彼はまるでひるむことなくリーシュの秘所をのぞき込んで、したり顔で頷いている。
 彼がどくと次の神官が進み出てきて、やはり同じように繋がっていた部分をのぞき込んでいた。
 敷布に置かれていた夫の手が、堅く拳を握りしめるのが見える。
 彼が神官たちに向け、なにか声を荒げようとしているのを察し、リーシュの中で理性が叫んだ。
(だめ、神官に逆らっては……!)
 リーシュはとっさに、彼の腕を掴んでしまった。
 夫がハッとした面持ちでこちらを振り返る。
 リーシュはいたたまれなくて、つい顔を逸らしてしまった。身体をつなげたばかりの状態で、彼を直視するなどとうていできない。
 その美しい顔が嫌悪を浮かべているのではないかと思うと、目を開けるのも怖くて、リーシュは空いた手で敷布を握りしめる。
 そうしてそろそろと彼から手を離そうとしたが、驚いたことに、彼はリーシュの手を捕まえると、包み込むように握り返してきた。
 頬に添えられたときと同じ、温かく大きな手。
 伝わってくる温もりに、リーシュはなぜか泣きそうになった。先ほどまでと違う、恐怖から出る叫びではない……安堵から出る、気の緩みが涙をあふれさせようとする。
 泣いてはいけない。リーシュが泣くと、神官と言わず女官と言わず、みんなが不吉だと顔をしかめるのだ。
 そんな女と身体をつなげて、きっと彼もいい気はしていないはず。それでもこうして手を握ってくれる。その優しさを踏みにじるようなことはしたくない。
 そうして気を張っていたせいか、婚姻の成立を告げる言葉も、リーシュの耳には入ってこなかった。
 じっと目を閉じて、ひとの気配がなくなるのをひたすら待つ。
 ふっとすぐ近くで空気が揺らぐのを感じる。同時にあたりが暗くなるのも。
 リーシュはそろそろと目を開けて、窓から注ぐ月明かりに映る、天蓋の絵をぼうっと見つめた。
 そこに描かれた女神様は、慈愛の表情でこちらを見つめている。
(終わったの……?)
 いつの間にか人の気配はなくなっている。明かりもほとんどが消され、室内は暗くしんと静まりかえっていた。
 ひとりになったのだろうか。そう思ったとき、隣からそっと声をかけられた。
「陛下、お身体はつらくありませんか?」
 リーシュはぴくりと肩を揺らす。身体を冷たいものが伝うのを感じながら、彼女はそろそろと、声がしたほうを振り返った。
 そこには心配そうな表情を浮かべた夫がいて、こちらをのぞき込んでいる。
 整ったその顔立ちに、一瞬、リーシュはなにもかもを忘れそうになった。
 ただ、このひとを見つめていたいと思った。
 このまなざしに見つめられていたいと。
 黙り込んだリーシュになにを思ってか、クラウドはふと彼女の下肢に目をやり、顔をしかめながら乱れたままの裾を整え始める。
 リーシュはぼうっとしたまま、彼がするままに任せ、その動きを見つめていた。
 が、彼が引き上げた毛布の下で、彼女の肩を抱き寄せようとした瞬間、ハッと我に返って怖くなる。
 先ほどまで身を貫いていた痛みが否応なくよみがえる。彼はまたあの行為をするのだろうか。今でさえ身体の力が入らず、痛みの残滓が秘所を痺れさせているというのに。
(いやっ……)
 リーシュはとっさに身をよじり、彼の腕から逃れようとした。
 クラウドは引き留めない。リーシュは震える足を叱咤して、なんとか寝台を降りようと試みた。
「陛下、どちらへ?」
 夫が驚いたように尋ねてくる。
 どこへ? どこでもいいから逃げたい、そう思っていたリーシュは、一瞬答えに遅れた。
「……自分の部屋に、戻ります」
 出てきた声は、自分でも頼りなく思えるほどにかすれている。
 それをどう思ってか、肘で身体を起こしていた夫は、すぐに寝台を降りて、リーシュの前に回り込んだ。
「動くのはおつらいはずです。もし……ともに眠るのがいやだと言うなら、わたしが自分の部屋へ戻りましょう。陛下はこちらを使ってください」
 言い含めるような声音に、リーシュは驚く。気遣いに満ちたその内容には、もっと驚かされた。
(……わたくしを案じてくださっているの……?)
 おおよそ信じられないが、そっと仰ぎ見た彼は、確かにリーシュのことを心配そうな表情で見つめている。
 他人から、こんな風なまなざしで見つめられたのは、いったいどれくらいぶりのことだろう……
 そう思った瞬間、ふっと肩の力が抜けた。逃げなければという意思も霧散した。代わりに鼻の奥が痛んで、忘れかけていた涙があふれそうになる。
 泣いてはだめ、そう思うより先にふわりと抱きしめられ、リーシュは軽く目を瞠った。
「おひとりで泣きたいとお考えだったのですか? どうぞこれからは、わたしの胸をお使いください。わたしにまで遠慮することはありません。わたしたちは夫婦なのですから……」
 優しい声音で呟かれ、背中を大きな手で撫でられる。
 そのまま包み込むように抱きしめられて、伝わる体温と落ち着いた鼓動に、止めようとしていたものが一気にあふれるのがわかった。
「もう大丈夫ですよ。あなたはひとりじゃない」
 額に優しく口づけられ、これ以上ないほど優しい言葉をかけられ、リーシュはもうこらえられない。
 毛布に入ったあとも彼はずっと抱きしめていてくれて、リーシュはこらえきれず、敷布ではなく彼の夜着をぎゅっと掴んでしまった。
 声を上げたいのを必死にこらえて、リーシュは彼の胸に顔を埋める。自分とは違う温もりと香りに、体中が温かく満たされるのがわかった。
 もう何年も遠ざかっていた、他人から与えられる優しい温もり。
 それを、彼は分けてくれようとしているのだろうか――?
「これからはわたしが、ずっとおそばにおりますから」
 その一言に、リーシュの心が熱く疼く。
 本当に? ずっとそばにいてくれるの? あなたも乳母や侍女たちと同じように、わたくしの前からいなくなったりしない……?
 そうすがりたくなる一方で、彼に心を許してはいけないと理性が激しく訴える。
 彼はいずれ国に帰ってもらう存在だ。大切だと思うならなおさら、手元にとどめておいてよい人間ではない。
 これ以上の犠牲はたくさんのはずだ。子を授かったなら、この手を早々に離さなければ……
 だがそう思うと、収まったはずの悲しみが突き上げるように戻ってきて、リーシュの涙はいよいよ止まらなくなる。
 ずっとこの温もりにこうして包まれていたい。
 こうして彼に護られて、彼の体温を感じながら眠りにつきたい。
 それができるなら、ほかになにもいらないのに――……
 リーシュは泣きながら、彼とともに、普通の夫婦のように歩いて行く未来を思い描く。
 絶対的に叶わない夢。けれど思うだけなら自由だと、戒める心に言い訳して、彼女はしばらく幸せな想像に浸った。
 その気分のまま、とろとろとまどろみに誘われる頃になっても、夫はずっと髪を撫でてくれていた。
 それが泣きたくなるほど、嬉しかった。
 
***


なんだか最終話を読んだあとに読むと
悲壮感たっぷりで切ない(涙
この頃のリーシュに
「一週間後にはとりあえず幸せになれるよ」と
声をかけて上げたいですね。
ま、その数ヶ月後にあんな大変なことになるわけですが(目逸らし

長い方は約一年間、連載におつきあいいただき
本当にありがとうございました!
気づけばお気に入り件数が2300人?
うわぁ、『王家の秘薬~』と並びましたね(汗
ありがたくも恐れ多いことです(汗
評価してくださった方々もありがとうございました。

また別作品でお会いできることを願っております。


あ、ちなみに『奪われた純愛』は
明日あたりに第二話更新します。
今日はちょっと難しいかな~……(汗
とにかくがんばります(走っ

『呪われ姫』SSです

本編が遅々として進まないせいか、
作者の中でもフラストレーションが溜まりまくりorz
SS書く時間があるなら本編を書けや、
と自分でも思うのですが、
書こうと思っても筆が進まないから、
こういうSSを思いついちゃうわけで。
思いついちゃったからには、
気分転換も兼ねて書いてみたいわけで。

ということで『呪われ姫と婿入り王子』の
ちょっとした日常の一コマ。
時系列で言うと、だいたい『蜜月期』あたり。
クラウドが旅立つちょい前くらいですかね~。

では、どうぞw


*****

「……まぁ」
 扉の向こうに見えた光景に、リーシュはぱちくりと瞳を瞬かせる。
 音を立てないようそっと扉を閉めた彼女は、改めて窓辺に視線を向けた。
 日当たりのよい夫婦の居間の窓際には、小さめのテーブルと安楽椅子が置かれている。
 王族の姫として生まれながら、女王の地位にあるリーシュには、その椅子に腰掛けくつろぐだけの時間はほとんど与えられていなかった。
 けれどもここ最近は、隣国から婿入りした王子で、ローフェルム公爵位を持つ夫クラウドがいろいろ手伝ってくれるため、彼女にもずいぶん自由な時間が増えてきた。
 その時間を利用して、この頃夫は妻を乗馬や散歩に頻繁に連れ出すようになっている。
 けれど今日は議会で上がった案件について、宰相のムーアと話したいことがあり、いつもより執務の時間が長くなってしまったのだ。
 クラウドはクラウドで調べ物があったようだが、どうやらリーシュが手が空くより先にそれが終わっていたらしい。
 その彼は今、ゆったりとした安楽椅子に腰掛け、気持ちよさそうな表情で眠り込んでいた。
 膝には広げられたままの法律書がある。女王の婿として、空いた時間もこの国のためになることを学んでくれているのだと思うと、リーシュの胸はたちまち温かいもので満たされていった。
(けれど、こんなふうにうたた寝なさるなんて、めずらしいこと……お疲れだったのかしら?)
 すやすや眠っている夫を起こすのも忍びなく、リーシュは慎重な手つきで法律書を取り上げる。添えられていた右手がぱたりと膝に落ちて、夫の眉がわずかに顰められた。
 起こしてしまったかと慌てたが、彼は「ううん……」と小さくうめいて、またすやすやと眠り込んでしまう。なんだかいつもより子供っぽく見える仕草に、リーシュの頬は自然と緩んでしまった。
 とは言え、そろそろ日が落ちる。このままでは風邪を引いてしまうと、一度夫婦の寝室に入ったリーシュは、膝掛けとガウンを手に居間に戻った。
 広い肩と膝を包むようにそれらを着せかけ、ひとまずほっと息をつく。
(……綺麗な寝顔……)
 抱きしめられたときもそうでないときも、たいてい夜はリーシュのほうが先に眠ってしまって、朝は彼のほうが先に目覚めているので、寝顔を見る機会はずいぶん減ってしまっていた。
 ジェノスに叩き起こされていた頃は、端正な寝顔に何度かどきりとさせられたが、慌ただしく寝台を抜け出さなければならなかっただけに、こうしてじっと観察する時間は与えられていなかったのだ。
 だからというわけでもないが、リーシュはついまじまじと夫の寝顔を見つめてしまう。
(ただでさえ美しいお顔立ちなのに……眠っていてもとても素敵)
 伏せられた睫毛はとても長く、差し込む陽光にきらきらと淡く輝いている。
 同じ色の金髪は癖もなくさらりとうなじを覆い、薄く開いた唇は、こんなときでさえどこか艶っぽく感じてしまう。
 その唇から、昨夜寝台の中で紡がれた言葉を思い出した途端、それまで絵画を見つめている気分だった胸がたちまち鼓動を刻み始め、リーシュはつい頬を赤く染めてしまった。
(わたくしったら、いったいなにを考えているの……)
 日のあるうちからはしたない……そう自分を戒めながらも、夫を観察する視線をなかなか外すことができない。武人でもある彼がこんなに無防備な姿を晒していること自体、とてもめずらしいことだから、できるだけ長く見つめていたいという欲求が勝ってしまうのだろう。
(それにしても、本当に起きる気配がないわ)
 唇から漏れる寝息は深く、体中から力が抜けている。
 その呼吸音をしばらく聞いていたリーシュだが、ふと、悪戯心に似た衝動が芽生えてくるのを感じた。
「……」
 こんなことをして大丈夫かしら、起こさないかしら、と思いながらも、音を立てないよう気をつけながら床に静かに跪く。
 膝立ちになり、彼女はわずかにうつむいた夫の顔を、すぐ真下からじっと見上げた。
 相変わらず夫は起きる気配がない。長い睫毛の中に、何本か銀色に光るものが混ざっているのを確認して、朝露を含んでいるようだと思った。
 なんて綺麗なんだろう……そう思うと同時に、愛おしい思いが込み上げてきて、リーシュはそっと伸び上がり、彼の薄い瞼に唇をふれあわせた。
 下唇に睫毛の先がかすかにふれる。わずかな震えを感じた気もしたが、相変わらず夫は起きる様子もない。
 リーシュはわずかに躊躇ったが、込み上げる欲求に負けて、そっとその唇にもふれてみた。
 しっとりとした弾力と温かさが伝わり、思わずため息のような吐息を漏らしてしまう。
 彼の唇から漏れる寝息と自分の呼吸が混ざり合うのがわかって、背筋にふるりと甘い震えが走った。
(クラウド……)
 胸の中で、自然と彼に呼びかけてしまう。
 愛おしくてたまらなくて、自分のつたない口づけだけでも、胸がいっぱいになってしまった。
「……ん……」
 あまりふれていては目を覚ましてしまうかも知れない。けれど少しでも長くふれあっていたくて、彼が動かないのをいいことに、つい角度を変えて再び口づけてしまう。
 温かな吐息がかかるのにうっとりとしていると、ふいに、膝掛けに置かれていた彼の手がぴくりと動いた。
 目を伏せていたリーシュはそれに気づかず、力強い腕が肩に回され、ぐっと引き起こされるのを感じた瞬間、びっくりして悲鳴を上げてしまった。
「んんっ……!?」
 その悲鳴もたちまちくぐもったうめきになり、食らいつくような口づけを浴びたリーシュは目を白黒させる。
 だが見開いた瞳いっぱいに、夫の薄青の瞳が映り込んできた途端、リーシュはたちまち息を呑んだ。
「く、クラウドさまっ!」
「なんです? いたずらっ子の女王様?」
 揶揄するように呼びかけられ、リーシュはぼっと真っ赤になる。
 あわあわしているうちに膝上に横向きに抱え上げられ、一気に縮まった距離に、どうしようもなく恥ずかしくなった。
「ご、ごめんなさい。お起こしするつもりは……っ」
「構いませんよ。こういう起こされ方ならむしろ大歓迎です。毎日でもしてほしいくらいだ」
 こめかみに口づけながら、クラウドは軽い調子で言う。
 怒っている様子はなさそうだが、明らかにおもしろがっている響きがあり、リーシュとしてはいたたまれない。
 思わず口元を押さえてうつむく彼女に、クラウドはくすくす笑いながら、長い腕を巻き付けてきた。
「口づけでなくても構いませんよ。そうだな、たとえば……服を脱がせるとか。あなたにならいつだってやられていい」
「そっ、そんなはしたないこと、いたしません!」
「寝ている人間にキスはするのに?」
 意地悪く問い返され、リーシュはぐっと言葉に詰まる。
 恥ずかしさのあまりふるふる震えながらも、リーシュは精一杯虚勢を張った。
「も、もう二度とこんなことはいたしませんから! どうぞお好きなだけお眠りに……きゃあ!」
 彼の膝から降りようとしたリーシュだが、次のときには横向きに抱き上げられていた。
 慌てて夫の首筋にしがみつくと、意地の悪いという表現がぴったりの笑みを浮かべた夫が、至近距離で囁いてくる。
「連れないことをおっしゃらないで。それに、二度寝するなんて無理です。あなたの可愛い悪戯のせいで、すっかり起きて(・・・)しまいましたから」
「起きるって……」
 あれよあれよと寝室に連れ込まれ、寝台にふわりと降ろされる。
 あまりよろしくない雰囲気を感じ取り、彼の腕が離れた隙に逃げだそうとしたが、あっさり抑え込まれて、右手をがっちり掴まれる。
 そしてそのまま、指先を彼の中央へと導かれた。
 布越しにはっきりとそそり立ったものを感じ取り、リーシュは息を呑んだまま、真っ赤になって固まってしまう。
(お、『起きる』って、そういう意味なの――っ?)
「ひとの眠りを遮った責任は、きちんと取ってくださいね」
 にっこりと、綺麗すぎて怖いとすら思える笑みを向けられ、リーシュはひくっと口元を引き攣らせる。

 ――日が落ち、入浴の時間になっても姿を見せない主夫妻に、老侍女たちは一様に首を傾げたが……、寝室の扉の前を通るなり、なるほどと納得してそそくさと退散していった。
 さらに数時間経ってもふたりが姿を見せなかったため、扉の前に夕食と飲み物だけを用意して、さっさと控えの間に下がる。その顔には「若いっていいわねぇ」というほくほくとした笑みが浮かんでいた。
 だが当事者であるリーシュはすっかり疲れ果ててしまい、意識を失う寸前、寝ている夫に二度と悪戯心を芽生えさすまいと固く誓ったのであった――

*****


肝心のRシーンどこへ行った? という感じですが、
ほらっ、ここブログなので、一応そこ自重なのですorz
それにこういうSSに無理にエロを入れる必要はないと思うし。
さらっと読めるからいいんじゃない、と思います。

積極的なリーシュと受け身のクラウドもいいですよね~。
反転するのはまぁお約束ということで(苦笑

ちなみにクラウドは薬とか使われない限り、
眠っていても感覚の一部は起きている状態なので、
リーシュが近づいてきたときも「あ~、リーシュだ~」
という感じで、ちゃんと認識はしています。
起きなかったのは、それこそリーシュになら
なにされてもいいくらいに思っているから。
とはいえキスされるのは予想外だったはずで、
(せいぜい寝顔観察されるくらいだと考えていた)
躊躇いがちにちゅーされて、
びっくりして理性飛んだ感じになっております。
そう考えるとまだまだクラウドも若い、というか青いよね(笑


そんな感じで突発SSでしたw
本編は……筆が進み次第……上げていきます……orz